まずい、この出血は・・・・
左肩に右の掌をグッと、痛みを感じるほどに強く押しあてながら、瓦礫に背を預けた。
今にも飛びそうな意識を、この痛みによって是が非でも保とうとしていた。
今意識を失えば。
自分は、間違いなく死ぬ。
ぽた、ぽた、ぽた。
赤い液体が道着の袖をつたって地面を染める。
人造人間たちは、今日のゲームはおしまいと言っていた。
血の匂いを漂わせても、おそらく奴らは追ってこないだろう。
真綿で首を絞めるようにじりじりと、獲物を追い詰めるのが奴らのゲーム。
今日はまだ、刈取る時期ではないのだ。
早くブルマさんのところに戻って治療をしてもらわないと。
ブルマの専門は機械工学だが、人体構造の知識は一般人よりは長けている。
あそこに着けば、最低限の応急処置は施してもらえるだろう。
僕は今死ぬわけにはいかないんだ。
僕が死んだら・・・
死んだら・・・お母さんは・・・
数年前に病で父を失った母は、僕の前で一度だけ涙を流した。
きっと一人の時はたくさん泣いていたはずだけど、僕の前では、喉の奥にグッと力を入れて、嗚咽と涙を抑え込んでいたのだろう。
僕まで死んでしまったら、彼女は泣くのを耐える理由がない。それこそ、涙枯れるまで、死ぬまで泣き続けるのではないか。
トランクスに迎えに来てもらうために、つい先ほど一瞬だけ、気を高めた。
賢い彼のことだ。きっとすぐさま気づいて僕を探しに来てくれるだろう。
ただ、そのために気をほとんど使い果たしてしまったがゆえに、残り僅かな悟飯の気を検知できずに彼は苦労しているはずだ。
遠くでかすかにトランクスの気配を感じるが、やはり僕を見つけられずに迷っているようだ。
どうする?
もう一度、命を削ってでも気を高めるか?
迷っているうちに、失った腕があったはずだった場所から血液は今もなお、ダラダラ流れ落ちてゆく。
本当に、まずい。野生の本能がそう言っている。
出血多量で、あと数分も持たないだろう。
悟飯は意を決して、右手に小さな気弾を作った。
タンパク質は焼くと固まるんだよね。
止血のためとは言え・・・どうせ肉を焼くなら、パオズ山で採る動物の肉がよかったなあ。
くだらない願望に、フッと笑いながら、右手を左肩に移動させる。
ツンと鼻につく焦げた匂いとともに、夕暮れの空に、絶叫が響いた。